蕎麦好きの独り言(2015.09.29up)

その弐四「収穫感謝」

  
新米が出来ましたよ


秋の空は女心に喩えられますように見極めの難しいものがございます。
今年の梅雨は空梅雨だったためか、稲刈り時期には連日の雨に祟られ随分と難儀した農家の方々もいらっしゃるのではないかと思われます。我が家の田んぼも例外ではなくかなり軟らかい中での作業と相成りました。まったく去年とは雲泥の差であります。
作柄もあまりよろしいとは言えないようでありまして、片手間農家とは申しましても頭が痛うございます。少なくとも後十年ほどは続けたいと思いますので、現役の内にと言う安直な思いから農機具の更新をここ数年続けておる関係上、も少し実入りの良い農業を目指さねばと考えてはおりますが、何と申しますか世間の風は冷とうございます。


  
稲刈りの前後


先日某JAから封書が届いておりまして何かと思い中を確認致しましたところ、本年産の米の概算金(仮渡し金とも呼ぶ)の一覧表が入っておりました。
世間では安保法案の強行採決についての報道が過熱しておりましたが、可決致しましてからは誰もがもう関心がないように感じられます。が、そんなバカ騒ぎの中で本年の米概算金の報道がひっそりと行われていました。
以前県内各JAに公取(公正取引委員会)の査察が入ったことがありまして、色々な物議を醸しておった次第でございますが、昨年の概算金は史上最低なこともありまして、ほとんど全ての米農家は赤字決算を出したのでありまする。

昨年までは各県の全農が、独自に決めた額をそのままマスコミに公表しておりましたが、本年からはメディアには原則非公表となりました。簡単に言えば各JA単位で概算金を設定する体制に変わったのでございます。新聞にはその辺の理由もノーコメントと書かれておりましたが、全農には公にしたくない理由があるのでございましょう。しかしながら制度は変わっても中身はほとんど変わらないと考えて間違いないでしょうね。要するに壁の塗り替えと同じことだと考えておる次第でございます。それでもさすがに去年よりは若干値上げしたようではございますが、ぞの分、別の経費が上がっているんでしょうから、農家の取り分が上がったなんて、決して考えてはいけないことだと思う次第でございます。

お金持ちには黙っていてもお金が入ってくる、なんてことは嘘だと若い時分は思っていましたが、なかなかどうして、今ではその仕組みが少しですが、何となく分かってしまったんですな。まああまり詳しくは申しませんが、いやいや筆者が金持ちになったわけでは決してございませんので、くれぐれも誤解無きように…
貧乏暇なしとはうまく言ったものでございます。はい、忙しくて山にも行けやしませんから…(悲)
おっと話が横道に逸れてしまいましたが、今回はJAという組織について少し書いておきたいと存じます。


JA○○(農業協同組合)などという組織は、各県の市町村単位でかつては複数存在しておりまして、大小併せて星の数ほどあったのでございますが、ある時期に(20年ほど前)合併してより規模の大きな組織となりました。
ちなみに筆者が在籍するJAは5つの組織が合併しました。それらの上部団体が全農(全国農業協同組合連合会)であり、各都道府県に本部がある訳でございます。またその上部団体に全中(全国農業協同組合中央会)と申します組織がございます。これはいわゆる指導機関とでも申しましょうか、各JAに対して会計監査が出来る組織でございます。会計監査が出来ると言うことは実質的なトップと言うことになります。
有り体に申せば全中が東京本社で、全農が各県支店であり、各JAが市町村単位の営業所となるわけでございます。その顧客が我々農家な訳でありまして、せっせとお金を献上している訳でありまする。

かつて公正取引委員会は、県内各JA代表が一堂に会して米手数料の額を決めている疑いがある(談合かな?)といって警告したことがございます。
談合とはいっても全農の決めた額を各JAが履行するだけなのですが、これがたぶん独禁法に引っかかると言うことなのでございましょう。これはマスコミにも取り上げられTV等にて大きく報道されました。そんなことも含めて今回の概算金対応となった訳であると考えております。
ここで概算金についても少し触れないと、話がややこしくなるでしょうから、少しだけ書くことにします。

概算金(仮渡し金)とは、米集荷時に各農家に支払われる前金とでも申しましょうか、全農が買い上げる額から各JAの経費を引いた額のことでありまして、これがその年の消費者が実際支払う価格の基礎となります。
実質的に米を売る各JAの販売担当者が、米の問屋さんや大口の取引先と価格交渉を致しまして、当然のことながら概算金より高く販売する訳でございますが(逆もあり得ますがね…)その行為自体は各JAの責任というか、独自のものでございますから差違が生じる訳であります。よってJA単位での概算金には各々違った額が明示されなければ不自然でありますよね。

最近は政府に売るよりも各JAが独自に販売ルートを開拓し、そちらに流れる量の方が多くなりましたから、ますます県内同額では不自然な気が致しますが、昨年まではそれがまかり通っていた訳でございます。
概算金に対する本精算金は、その年買い取った米の全数量の販売が終了した時点で差額を精算するシステムなのでございます。もちろん全数販売に数年かかる場合もございますから精算も数年後という場合もございます。(そちらの方が多い)

賢明な読者はお分かりのことと存じますが、この辺の販売手数料に問題がある訳でございまして、種々の論争の元となっておるところでございます。つまり手数料の内訳が闇の中にあるのでございます。
もちろん商取引に関しまして色々な工作が必要であることに異存はございませんが、我々に明示されるものの数が半端ではございません。それが複数年に渡って細分化されて精算される訳でございまして、多分担当者でさえ実態が把握できてないのではないかと疑問視する声もございます。かようにJAと農家の取引は複雑怪奇なものでございまして、特異と言っても過言ではないかと存じます。

一例を挙げます。世間様の通常の購買取引ですと見積もりを数社から取り、もっとも経済的に有利な業者と契約致します。世間一般の契約書には、数量、単価及び合計額、支払条件、納入期限などが明記されております。つまりは明確な金額が契約の基本だと思う訳でございますが、農家とJAの契約書には不思議なことに契約金額が明記されないのでございます。つまりは製品はJAが責任もって買う代わりに、金額はその時の相場等を勘案して後で決めましょうと言うものなのでございます。いわゆる後出しジャンケンみたいなものでございます。

筆者は片手間で老親の手伝いから農業に入りました身なので、当初こういったなまめかしい話には無頓着というか、当時の社長に任せきりでありました。ゆえにこのようなシステムについては存じ上げませんでした。むろん本業は普通のサラリーマンでありますから、通常の購買システムにはそれなりに通じておりましたが、いやはや実態を知った時には開いた口がふさがらなかった思い出がございます。
しからば止めますかと問われれば?????な訳でございまして、つまり作ることは出来ても売ることが出来ないのであります。これはほとんどの農家に当てはまるのかななどと考えている次第でございます。
まあ中には全量個人販売と言う強者もおりますけれど…

そんな案配でありますから年間の収支予算なんて組んだところで、どうにもならないのがJAに依存している農家の実体なのかと考える次第でございます。
考えるにJAとの契約書なんてのはただの口約束だと思えばよろしいのかと、つまりは法的実行力のないチリ紙みたいなものと考えている次第でございますから、条件の良いところがあれば無視して取引しても良いのではないかと思われます。もっともこれは自分の家で精米し出荷出来る方に限ります。今流行のカントリーエレベーター等の施設を利用している方は、ブツを押さえられている訳ですから不可能な訳でございます。
幸か不幸か我が家では自家で一応処理できますから、新たな販路を探すことも出来るのでありますが… 
       でもね…(汗)


また本年は秋田県に於いて米の生産数量目標を三十年ぶりに達成したそうでありますが、これは飼料用米への切り替えが進んだことが大きな要因だそうでございます。
ああ、ちなみに生産数量目標とは減反目標数量と同義語でございます。
秋田県と言えば大潟村がございまして米作に関して申せば国内でも有数の大規模化を誇っているのでありますが、我々水飲み百姓と同じ数量目標の比率を適用すること自体ナンセンスなわけでありまして、これまでいろんな意味で軋轢があったことは周知でございます。

しかしですね、飼料用米なんてものは、お上の補助金がなければ割に合わないものでございまして、我が家でも数年前まで作付けしておりましたが、面倒くさいので止めてしまったのでございます。
つまりは国民の血税を投じて家畜の餌を作って、その家畜を国民の皆さんがお食べになる訳でございますから、考えてみたら我々農家にしてみたら結果は同じようなものでございます。要するに国民はお肉を食べているのでございますが、間接的に米を食べているようなものなのでございます。

もうお分かりになったことでございましょうが、この辺にお金持ちのための、見えざる仕組みが隠されているのでございます。
なんて、考えすぎですかね…(汗)






  
今回の蕎麦は中ノ俣産です


話は変わりますが、稲刈りが終わって一段落したと同時に無性に蕎麦打ちがしたくなりました。そして久しぶりに嗅ぐ蕎麦の良い香りを楽しめました。何だかんだ言ってもやはり秋の恵みを頂くことは嬉しいものでありまする。
秋は実りの季節、米ばかりでなく蕎麦も実ります。屁理屈ばかりで辟易するような文面を再読しましたら、自然の恵み等に感謝しなければならない素直さが欠けている自分に気付いたのでございます。


それから先日嬉しいことに友人が木鉢に漆を塗って届けてくれました。ええ、何年か前に白木の木鉢を預けていたんです。暇を見て余りの漆を塗ってくれと頼んでおいたものでありますが、もちろんタダですよ(笑)
しかしタダほど高いものはないとも申しますから結果的に高くつくかも知れませんがね。
そのうちお礼をせねば…


漆塗りの木鉢が…